こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

Emotion 情動・感情

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感情を生む心はどこにあるのか、大昔から議論されてきました。心(mind)の住処の探究です。古代エジプト人やアリストテレス(B.C.384-322)は心臓を心の住処とし、一方ヒポクラテス(B.C.460-379)は脳こそが心の住処だと主張しました。デカルト(1956-1650)が現れるとそもそも心と肉体(body)とは別々のもので、両者は相互作用しているだけだと唱えます。議論される"the mind-body problem"はヒポクラテスの論を引き継いで、脳科学を発達させるに至ります。そして今日も情動についての探究は留まることなく進みます。例えば:
  • 感情表現における文化毎の違いではEkmanが、文化により特定のルール(display rule)があるとしました。白人文化ではアジア文化に比べてcontempt(怒りと嫌悪)の表現が適切とされたり(Matsumoto, 1994)、日本では女性が大口を開けて笑うことはあまり好しとされずに手で顔を覆う傾向があったり(Ramsey, 1981)します。相撲界のdisplay rulesでは勝ってもガッツポーズすると勝ちを取り消しにされますよね。西洋人からするとアジア人は感情表現が少なく、思っていることが分かりにくいのだそうです(Aronson 2011)。
  • また、感情の素では、アメリカと日本のそれぞれの大学生に調査を行ったところ、"happiness"を感じるのは「自己の有効性・優越性・誇り感じるとき」とアメリカ学生が答えたのに対し、日本学生では「他とのつながり、友好、尊敬を感じるとき」と答えました。これは個人主義と集団主義文化の違いとされます(Kitayama & Markus, 2000)。
  • 何か特定の物事に遭う時、それをどう把握するかによって感情は変わってきます。例えば、激しい喧嘩になりそうだったので「一人にして」と相手が言った時、アメリカ人の間なら個人の意思を尊重するまでですが、日本人の間では意地悪とか冷たいことを言うという捉え方をしたりします。このことは社会心理学の『社会的認知』のトピックで学習されます。

この他、記憶との関係恐怖とストレス反応恐怖症などの異常性、コミュニケーション性気分への関与、男女差等について、ポストでそれぞれ取り上げることにし、以下『情動』の学習の入り口です。


Theories of Emotion - 情動理論 -
日常英語でのemotionとはfeelingとほぼ同義で使われますが、科学的に使われる場合の"emotion"(情動)は、二つの要素に分けられるとします。一つは身体的変化あるいは反応(physical reaction)、もう一つは主観的経験あるいは感情(subjective experiences or feelings)です。

情動が生まれる流れについてはいくつかの説があります。
  • 「事が起こる → 感情が湧く → 身体的反応が起こる」という流れで情動を説明するのは、私達が常識的に把握している社会通念です。例えば、注射をされることになり、恐怖を起こし心拍数が上がるなどです。
  • ところが、これは流れが逆だと指摘したのが近代心理学の父William Jamesで、「事が起こる → 身体的反応を起こす → 感情が湧く」と説き、これは"James-Lange theory"と呼ばれます。例えば、出血を見て心拍数が上がると恐怖感が湧いてくるのような。情動は身体的変化が著しい程強くなるとされます。
  • 「事が起こる → 身体的反応が起こる → 反応を理由付ける → 感情が湧く」という流れは"two-factor theory"と呼ばれます。これについてはポスト 吊り橋効果 で説明します。


Papez Circuits - ペーペズ回路 -
James W. Papezは、視床下部(hypothalamus)・視床前部(anterior thalamus)・帯状回(cingulate cortex)・海馬(hippocampus)が情動に関与していると指摘しました(1937)。視床下部は情動の身体的反応、帯状回は感情の経験をそれぞれ担っています。情動の刺激となる情報は視床に働きかけ、感覚皮質(sensory cortex)か視床下部のいずれかへと送られます。感覚皮質へ送られた方は"stream of thinking"、視床下部へ送られた方は"stream of feeling"とし、この回路は"Papez Circuit"と呼ばれ、James-Lange theoryを支えるとともに、two-factor theoryの基盤となります。
Papez circuitが出発地点となり、更なる研究が重ねられていきます。1949年にはPaul McLeanがPapez circuitに他のエリアも追加し、大脳辺縁系(limbic system)と呼びました。追加したもののうち最も重要なのは扁桃体(amygdala)で、扁桃体は主に「恐怖」の感情に関与しています。


Emotional Expression - 感情表現 -
Image:MIT ©Paul Ekman
感情表現(emotional expression)について、最初に科学的分析に取り組んだのはCharles Darwinです。彼はExpression of Emotions in Man and Animals (1872)の中で表情(facial expression)と体勢(body posture)はコミュニケーションを図るためのものであり、異種間で類似した表現を行うと唱えました。
Darwinの説を引き継いだPaul Ekmanは更に、人間に限定した表情によるコミュニケーションは世界共通であるかを研究し、

嬉しさ(happiness)・嫌悪(disgust)・驚き(surprise)・悲しみ(sadness)・怒り(anger)・恐怖(fear)

の6つの感情は共通に表現されるとしました(1992)。
彼らの発見は様々な分野で応用されていますが、2012年4月のRachael Jackによる報告では、表情の認識は文化によって違いがあるとしています(Science)。これについては更なる研究が続くものと思われます。
Ekmanのもう一つの興味深い発見ですが、しかめつらを作ると怒った気持ちを発生するというものです。これは、James-Lange説を裏付けます。顔の筋肉の動きが脳に伝えられ、表情に合った感情が作り出されるという仕組みになります。


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