こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

頑固の仕組み

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コラーゲンは食べても無駄だとか、寝ている間の夢には占いみたいな意味はないとか、とかくこのサイトでは様々な信念を否定するようなことが紹介されます。これらは科学研究の結果、現時点では事実として世に公表されていることたちです。
しかしながら、列記とした情報があっても信念は取り除かれにくい、というのもまた事実です。

例えを挙げて説明することにいたしましょう。
以前女性芸人であるシルク姉さんが、「酸性の食品は駄目」とテレビ番組内で申されました。 彼女が言っているのは、「酸性食品は身体に悪い」としてアルカリ性の食品を多く摂ろうとする美容法のことです。

酸性・アルカリ性はpH(ペーハー)で数値化されます。ph7を中性とし、人体を巡る血液はph7.35-7.45の間を保っています。
この数値は食べるものによって大幅に傾くものではありません。各食品自体が強い酸性から強いアルカリ性を示しても摂取する全ての食物は胃で消化され、必要ないものは排出されます。肌の表面で雑菌が繁殖するのを防がれるているのも、弱酸性が一定に保たれていることによるのです。このように身体は常に一定の状態に保たれるようにできており、この仕組みはホメオスタシス(homeostasis)と呼ばれます。

このホメオスタシスという人体生理機能の事実の他、酸性の食品にも健康に有益な栄養素が含まれているという事実、栄養を偏らせる可能性(骨粗しょう症を招く懸念も)、医師ならびに栄養士はこの美容法を薦めていないという事実(Los Angels Times)などはアルカリ性食品美容法信者にとって不都合な事実です。
それらは無視や拒否をされる傾向があります。 更に、このような事実が提示された後でも最初に信じ込んだものには固執する傾向があり(Ross & Anderson, 1982)、これを"belief perseverance"と言います。

これは犯罪裁判などでも大きく影響してきます。日常起こりがちな例では、育った家では「北枕は縁起が悪い」という信念が確立されていたのに、そんなことを気にしない婚姻パートナーが部屋の構造を考えて北枕にベッドを配置すれば、「ちょっと待ってよ」と言うことが起こり、そこでパートナーが「北枕で悪いことが起こるという科学的事実はない」と丁寧に説明しても信念は覆すことができず結局喧嘩にまでヒートアップする・・・なんていうことがあるわけです。

さてアルカリ性食品の話に戻りますが、これらの事実が提示されても尚アルカリ性食品美容法の信者が態度を曲げないのは、多くの野菜がアルカリ性であり、野菜を摂る事自体に健康へのメリットがあるためだとされています。
ここがポイントで、個人が「酸性食品は美容に悪い」という信念を持ち、この信念をサポートする文献だけを集めて「ほらね」とするようなことを "confirmation bias"(確証バイアス)と言います。

ちなみに、快楽的行動に恐怖を覚えさせることは難しく、意識を変化させるよりむしろ情報の拒否を行う傾向にあるとされます(Aronson, 1997)。
つまり、健康を害する恐れがあるのでこの美容法はやめた方がいいと訴える場合、面倒だけど仕方なくやっていたケースでは態度変化が期待できますが、「アルカリできれいになる」という喜びを感じてしまっている人ではどんな異議にも聞く耳を持たないということです。飲酒、薬物、セックスなども快楽が関与しているので意識変化が難しくなります。

著者の親の知り合いは、「オロナインを直腸に毎日塗ると何の病気にもかからない」という強い信念を持っています。信じ込むことで身体的な変化をもたらす現象はプラシーボ(偽薬)効果と呼ばれます。この仕組みについては信じると効くで説明いたします。

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