こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

腸内フローラと心理学

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腸内フローラとは、腸の中に住む微生物(細菌)の集合体もしくは生態系のことを言います。
およそ100兆個体以上が住んでおり、重さにすると1kg~2kgになります。
腸内細菌の環境や作用具合によって特定の病気が起こりやすくなったりするということの他、心(脳)の働きにも関わっていることが明らかになってきました。

ここ数年で発表された実験結果の一つには、臆病なマウスと大胆なマウスの便微生物を移植し合ったところ、臆病マウスは以前より大胆に、大胆マウスは以前より臆病になったという報告があります(Bercik et al, 2011)。
2013年の実験(Dinan et al.)では、鬱を病む人間の便微生物をマウスに移植したところ、これらのマウスが不安や鬱症状を見せたとのことです。
この他数々の研究結果から、腸内細菌は社会的交流やストレスマネジメントなど、認知機能や基本行動パターンに影響を及ぼしていると考えられるようになりました。更には、鬱の他でも自閉症・不安障害・慢性痛にも関わっているとされます(ELSEVIER)。

お腹と脳は双方向で連絡を取り合います。腸は第二の脳(the little brain)とも呼ばれています。
胃腸は腸管神経系(enteric nervous system)とされており、脊髄全体と同じ数の神経細胞があります。腸管神経系は交感神経系や副交感神経系から独立して機能できる神経系で(神経解剖学参照)、脳と同じ神経伝達物質を取り扱います。
腸内細菌の脳への影響が解明されていく中で、脳と腸は "gut-brain axis(脳腸中枢)" として、心理学で最も熱い研究分野になってきているのです。

腸内細菌は私たちの食べたものを餌にし、分解し、発酵させます。その際に熱を作る他、心や脳に関係する物質である、ドーパミンセロトニン、GABA、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質を産出します。
これまでにも心理学は食品自体に含まれる成分が作る心的効果を研究してきました。コーヒーに含まれるカフェインが神経を刺激することや、炭水化物がセロトニンを脳へ運ぶ役目をしていることなどを明らかにしてきたのが例です。
しかし、これから注目されるのは、食品自体が含むある特定成分が腸のどのバクテリアによって何に変換されどんな精神的影響を及ぼすかということです。
誰も皆同じ種類の腸内細菌を腸に宿しているわけではありません。腸内細菌は個人の選り好みを餌にします。つまり、何を食べるかによって、どんな腸内細菌を飼えるかが決まってきます。それが個人の個性すら作り上げていくことになりますね。
この研究は肥満や糖尿病の分野でも進んでおり、便微生物移植を行う治療が行われ始めています。高脂肪のものがどうしても食べたい渇望が抑えられないのは、腸内細菌自体の食べたい願望なのだということが見えてきます。
腸から脳へ伝わる経路も研究されつつあり、細菌の特定とともに精神疾患のための治療への応用が期待されます。



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