こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

Eating Behavior 摂食行動

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私たちは生きるために食べるのか、食べるために働くのか、どちらなのでしょう? 人間の思考・行動を研究する学問である心理学は、食べる行為の根底に敷かれる欲求が子孫繁栄の成功率を上げる目的に起因するとします。従って、明日の交配と未来の子育てのための健康を保つために摂食行動が促されていることになるわけですが、現代では「高い寿司屋のカウンターで好きなものを頼めるようになりたい」など、提供者が作るスペースの多様性に伴って食べる行為が社会的ステータスに繋がっています。
究極、水の他砂糖と塩だけなめていれば息をしていくことは可能ですが、たんぱく質を取らなければ新しい細胞は作られません。身体で合成されないビタミン・ミネラルを取らなければ身体の機能はうまく統合されず、種々の不具合を出します。結果として人間は雑食になりますが、どんな素材からこれらの栄養分を取ろうとするのかは地域や個人により異なります。
それは舌の味を感知する度合いだったり、社会的経済レベルに沿おうとするものだったり、学習や教育に左右された結果だったりするのです。つまり、人間の食行動は体質・信念・価値観が影響する行為です。生きるための食が健康を壊す食という本末転倒な事態を招くこともありえます。
ということで、食行動は生物学的研究並びに社会経済的行動としての研究が行われます。以下、基本内容の一部をご紹介したいと思います。


Food Choice - 食物の選択 -
食の好みは、大まかに年齢による違い(子供の頃の方が甘いものを好むなど)もありますが、地理による違いもあります。例えば、熱帯では寒冷地帯よりも辛いものが多く摂取されます。発汗による体温調節が可能になります。
日本では海苔を食しますが、これを分解するバクテリアは日本人以外の身体には存在しません(Nature, 2010)。自分が何を食べて生きていくのかはこのように遺伝子で決められる他、母親のおなかにいるときの羊水及び母乳を通して決められます(PsychCentral)。
その後、どんなものを口に入れられるか、どんなものが食卓に上がるかなどによって食・味の嗜好は左右されていき、2歳から4歳までの間には決定されるそうです(ADVANCES IN FOOD RESEARCH, Volume 32, 1989)。これらは人間という種全体に共通の、味(風味との違いに注意)の感知機能の上に乗っかります(感覚のページ参照)。
苦いものが苦手な人はsupertasterと呼ばれ、遺伝子による体質です。食品の選択は学習にも左右されます。コーヒーやビールなどは苦味を子供の頃は毒と脳が感知するためピーマンと並び拒絶する食品の対象ですが、危険な食べ物ではないことが学習されると摂取するようになります。しかしsupertasterは味に対する感度がそもそも違うため、危険とか安全とかいうことではなく、大人になってもこれらの食品を好まない傾向にあります。supertaster人口は25%(アメリカの場合)とされていますが、料理人を限定とした場合、どれくらいのパーセンテージになるのでしょう。

食べ物の選択とは食品の種類だけでなく、量のことも関係します。日本の場合、量に関してはびっくりするほど多くなっているわけではありませんが、やはりアメリカの場合はスーパーサイズ化が問題となっており、テレビ番組から映画にもなりました(Super Size Me, 2004)。
果たして、より大きなサイズを消費者が先に欲したか、あるいは先に提供されたものに私たちが順応しているのか、商売と人間の判断は食べ物のことに限らずですが常に議論されます。
尚、食教育は国の経済と癒着していることが指摘されます。例えば、たんぱく質であれば、家庭科授業での栄養素の学習時に指導されますが、一日に必要な量は日本人大人男性60グラム・女性50グラム(政府が表示するものがこの上なく見づらいのでGlicoより)、このうちの10%は植物性から摂取するのが望ましいとされます。日本で獲れる大豆あるいは国交易を潤滑にするための輸入大豆を食べてもらいたいことになります。
一方アメリカの場合はたんぱく質は牛肉の赤身から摂るガイドがなされており、植物性たんぱく質の摂取については指示なし。アメリカは畜産が大きな経済源ですので、国民には肉を食べてもらわないと困るため、このような栄養摂取量のガイドが作られます(NPR)。
日本では牛肉と言うと脂肪のたっぷり乗ったものがイメージされますが、アメリカの場合では本当にただの赤身なので、日本人からするとアメリカ人が肉ばっかり食べている=脂ばかりというアイデアを持ち、逆にアメリカ人が日本の神戸牛を食べると「こんなものあったのか」的にびっくりします。
このように、"当たり前の食べ物"とはいろいろな要素によって個人の頭の中に定義されていくわけです。何が健康かそうでないかの判断も社会に左右されるわけですから、Nature vs Nutureが盛り上がるおもしろい研究分野です。


From Appetite to Satiety - 食欲・食事・満腹感 -
心理生物学で学習される食欲の発生及び食事を経て満腹に至るまでのメカニズムステップをまとめることにします。

ステップ① 視覚や嗅覚から副交感神経と胃腸が活発化され、唾液と消化液を分泌させます。(cephalic phase)
ステップ② ①の反応が食物の咀嚼と胃の膨らみによって更に強力になります。(gastric phase)
ステップ③ 胃がいっぱいになると一部消化された食物は腸へ移動し、栄養は吸収され血液中に送られていきます。(substrate phase)

外的刺激を受けた①の時点で、脳が食事の摂取を期待するだけで、すい臓がインスリンを出し始めます。インスリンは血中の糖分を細胞へ吸収させる働きがあり、よって血中にあった糖分(血糖値)を下げます。血糖値が下がることにより食欲が増します。つまり、食べ物を目にするだけで身体が変化を起こし、それによって"食べたい"という感情を引き起こすことになります。注意しておきたいことは、血糖値だけが空腹感を起こし食欲につながる要素ではないということです。でなければ糖尿病患者は常に満腹感があるということになってしまいます。
日常の決まったリズムも食物摂取を期待させます。毎日12時に食事というリズムになっていれば、おおよそ11時半には決まっておなかがぺこぺこになります。ところが忙しくててんてこまいで働いている時などでは、おなかが空いていることも忘れていつもの食事の時間を過ぎていたなんていうことがあります。食欲は胃の空っぽさだけが原因ではないということがよく分かる例です。
③で胃壁が膨らむとその状態(gastric distention)が脳に知らされ食事行為の停止を促します。しかし食物がおいしいと満腹感を覚えるまでの時間が延び、よって食べすぎる傾向が生まれます。


Eating Disorders - 摂食障害 -
こちらの記述はポストに独立いたしました。 摂食障害


参考:
A Guide to Psychobiology, Henry Heffner 2011
Neuroscience:Exploring the Brain, Mark F. Bear et al. 2006


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