こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

Human Brain 脳

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心理学における脳の研究は、ヒポクラテスに始まります。そこからの歩みはBehavioral Neuroscience 行動脳科学の紹介ページをご参照いただくことにして・・・。
ここでは主に脳の構造と役割についてを大まかに説明します。各脳の部位は主な担当を負っていますが、もちろん複数の部位と連携して、そして脳以外の神経系とコミュニケーションをして私たちの思考や動きを可能にしています。
尚、神経細胞についてはNeuroanatomy 神経解剖学の方へ、神経細胞を流れる神経伝達物質についてはNeurotoransmitters 神経伝達物質のページへそれぞれ移動もしくは独立いたしましたのでお知らせしておきます。


Processes of Development - 発達の過程 -
Image from: WIKIMEDIA COMMONS

脳は脊髄と手を組み、中枢神経系(central nervous system: CNS)と呼ばれます。
受精から間もなくすると分裂していった細胞たちは胚とよばれる三層のディスク状(endoderm, mesoderm, ectoderm)になります(命の始まり参照)。
このうち ectoderm(外胚葉)の一部は神経板(neural plate)というものを形成し始め、へこむようにして溝(naural groove)を作り深くしていくと端と端をくっつけて神経管(neural tube)になります。この管が中枢神経系へと発達していきます。
くっついた端は管の上部に冠のようになって神経堤(neural crest)となり、やがては末梢神経や他の組織(tissue)へと発達していきます。
図の一番下では緑色が 神経堤で、青くペラリとなったものは外皮(epidermis)へと発達していくものです。
神経堤を構成する細胞は神経芽細胞(neuroblast)で、まだ未分化、つまりまだどの組織の種類になっていくか決定されてない状態です。
ここから段階的に発達を経ていきます。細胞は数を増やし(proliferation)最終地点へ移動(migration)していくと似たような細胞どうしでくっつき合い(aggregation)、脳のうち大脳皮質や大脳基底核の細胞になるかなど分化(differentiation)し、軸索・樹状突起を発達させます。そしてシナプスは生後もどんどんと必要以上に増え、弱いものから剪定(pruning)をされていきます。神経細胞は余分に予備用かのように発生してあるので、そのうち必要ないと判断されたものは自発的に死滅(apoptosis)します。生後の外的刺激が神経細胞の回路の発達を促していきます。

脳の神経細胞の発達はお母さんのおなかの中で済んでしまうため、生後は小脳と他いくつかの部分を除いて数を増やしません。
脳の重さは生まれた直後では350gほどで、1年で1000gまで増えます。これは神経細胞の個々のサイズが大きくなることと、シナプス、グリア細胞の増加によるものです。最終的に、成人でおよそ1200gから1500gの重さになります。


Divisions of the Brain - 脳の部位 -
脳の構造は、前脳(forebrain)・ 中脳(midbrain)・ 後脳(hindbrain)の三つに大きく分けられます。
更に、これらを構成するのは以下です。
前脳 --- 視床・視床下部・大脳皮質・偏桃体・海馬・大脳基底核
中脳 --- 被蓋・上丘・下丘・黒質
後脳 --- 延髄・橋・小脳
大脳と小脳以外を脳幹(brainstem)とします。
脳は左右対称になっており、右脳(right hemisphere)と左脳(left hemisphere)を分ける裂け目である大脳縦裂(longitudinal fissure)を横連合神経(commissures)がつなぎます。この神経バンドルのうち最も大きいものが脳梁(corpus callosum)です。


Lateralization of Brain Function - 脳機能の定位 -
図をクリックすると大きな分がポップアップします。この他の部位は横(端末により下)にあるタブの"BRAIN"にありますのでご参照ください。
認知機能の他、感覚機能や性格・感情などそれぞれは脳の特定部位が管轄していることが分かったのは19世紀に入ってからのことです。
1848年、Phineas Gageという人が線路建設の作業中に使っていた爆薬が爆発して、持っていた鉄の棒が左頬から前頭葉まで突き抜けたために、前頭葉の大部分を失うという事故がありました。Gageが意識を失うことがなかったことと感覚や運動機能も失われなかったことから、前頭葉がこれらの機能に関与していないことが明らかになったのです。しかし、事故後のGageは人が変わってしまったことから、前頭葉は人格と情動を司っていることが分かりました。

前頭葉(frontal lobe)は人間に特有のもので、作業の管理・感情的行動の見張り番・感覚情報の整理などを管轄しており、問題解決などの高い認知力を要する作業をするのにも働く場所です。
Broca(1861)は左の前頭葉の一部分が喋ることを管理していることを発見し、その部位はBroca's area(ブローカ野)と呼ばれるようになりました。
後頭葉(occipital lobe)は視覚のデータを処理するとともに、それを照合と記録のために脳の他のエリアにつなげる役をします。
頭頂葉(parietal lobe)は主に物の動く速さや場所を含める感覚情報を処理します。
側頭葉(temporal lobe)は記憶保管感情・聞くことを管轄します。左側にはウェルニッケ野(Wernicke's area)というエリアがあり、ここが機能しないと言語を理解することが不可能となります。よって話をするときは文法などもめちゃめちゃになるので何を言っているのかよく分からなくなります(Wernicke aphasia)。上で出てきたBroca's areaに損傷がある場合は、考えることも正確で相手の言うことも理解できるのに言葉にして出せないという失語症(Broca's aphasiaもしくはexpressive aphasia)と診断されます。

視床下部(hypothalamus)は主にホルモンと手を組んで血圧や体温調節を行う他、食欲の管理など、身体の均衡を保つのに働きます。

大脳皮質(cerebral cortex)は人間含める哺乳類では山折り谷折り、人間では6の細胞層になっています。年齢とともに厚さを増していきますが、最大の厚みに達する年数は場所によって異なり、後頭葉に位置する一次視覚野(primary visual cortex)では6ヶ月、側頭葉では16年掛かります。よって、認知的機能は15歳から20歳前後にならないと成長が完了しません。ということで、発育途中の脳にとって望ましくない物質であるアルコールは20歳からとされるわけです。アルコールについてはAlcohol Use:飲酒のページをご参照ください。
脳の溝になったところはsulcus [サルカス](脳溝)と呼ばれ、ぷくっとしている部分はgyrus [ジャイラス](脳回)と呼ばれます。
この大脳皮質と灰白質(gray matter)・大脳基底核(basal ganglia)からなる大脳は右と左の半球でできているわけですが、左右をつなぐファイバーバンドルはcommissuresと呼ばれ、一番大きなものが脳梁(corpus callosum)となります。

脳はあちこちでそれぞれの行動を管轄していますが、脳幹(brainstem)は呼吸や心臓の動きなど生命の基本的な仕組みを司っているため、ここが機能しなくなると死に至ります。逆に言えば、他の部分が機能しなくなって記憶も言葉も感覚機能を失くしても、脳幹さえ動いていれば息は続けていられるわけです。『脳死』に関しては倫理の問題として、心理学とは一線を引きます。


参考:
A Guide to Psychobiology, Henry Heffner, 2011
Biological Psychology, James W. Kalat, 2013


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