こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

Memory 記憶

Written by on
「記憶」という言葉を聞いたとき、どんなことを思い浮かべますか?夏休みにキャンプへ出掛けた時の記憶、あるいは受験で試された記憶能力でしょうか。
記憶については主に認知心理学行動脳科学(生物心理学)で研究されます。細かいことは沢山あるのですが、ここでは記憶に関する知識として代表的なものをまとめます。


Classification of Memory - 記憶のタイプ -
まずは記憶の名前をタイプ別に紹介します。
言葉で説明ができるものを陳述記憶(declarative memory)と言い、これに対して言葉で説明のできない身体で覚えるものを非陳述記憶または手続き記憶(nondeclarative memory/procedural memory)と言います。
陳述記憶は更に、冒頭で出てきた"受験で試された"ような、年号や数学の公式などの意味記憶(semantic memory)と、"キャンプへ出掛けた時"のような、過去の出来事や物語などのエピソード記憶(episodic memory)に分けられます。
非陳述記憶/手続き記憶は自転車の乗り方を覚えるような記憶で、一度体得すると忘れづらいのが特徴です。

留まる期間で記憶の種類を分けると、長期記憶(long-term memory:LTM)と短期記憶(short-term memory:STM)があります。
長期記憶は永久的に定着したものを言い、 短期記憶はworking memoryとも呼ばれるようになりましたが、現在進行形で働いている記憶のことを言います。例えば、ここまでの文章内容を覚えているのがworking memoryです。これが機能しないと何を読んでたかもさっぱり分からない状態になります。
短期記憶は使われれば使われる(リハーサル)ほど長期記憶として定着していきます。学習方法にもこれが採用され、漢字や英単語などは繰り返し練習して覚えるわけです。が、子どもの場合だと個人差はありますが、通常1,2回聞いただけで言葉を覚えてしまう能力があり、これはfast mappingと呼ばれます。
また、短期記憶を長期記憶にするには特定の期間に詰め込みをするよりも、間隔を開けての学習にする方が効果があります(distributed-practice effect)。


Starting with Information Processing - 情報処理から -
ここでは記憶の流れ的なことについて説明します。
記憶の工程です。まずは情報の取り込み(encoding:符号化)がなされます。次に情報は保存されることになります(storage:貯蔵)。そして情報が思い出される・取り出されることになります(retrieval:想起)。貯蓄に漏れてしまったものは忘れられていくわけです(forgetting:忘却)。
記憶は年を取ると衰えるという観念がありますが、encoding能力に関しては実は60歳くらいまで大した変化はありません。ただし、retrieval能力は残念ながら衰えていきます。"舌先現象"も多くなっていきます。
情報は感覚器官から取り込まれます。貯蓄される感覚情報の記憶はsensory memoryと呼ばれます。残像を利用したトリックなどはsensory memoryの賜物です。視覚刺激の記憶はiconic memory、聴覚刺激の記憶はechoic memoryと呼び分けられます。臭覚刺激の記憶、olfactory memoryについては、後ほどポストの方で取り上げることにします。

寝ても覚めても、外的にも内的にも、私たちは情報(刺激)に取り囲まれています。情報は電気信号として脳に伝わるわけですが、意識や注意をしないうちに取り込まれて貯蔵されるものをimplicit memoryと呼び、下地効果(priming)として後の決断を左右する力を出すことがあります。また、これらの情報の有用性は寝ている間に整頓され(夢に意味はあるのか参照)、デフラグに掛けられます。もちろん、意識や注意をして情報を取り込み貯蔵される記憶もあるわけで、これらはexplicit memoryと呼ばれます。


Memory Control & Problems - 記憶の管理と障害 -
記憶は脳の一箇所で全て管理されているわけではありません。
言葉で説明できる陳述記憶では、海馬(hippocamups)が記憶の固定化(consolidation)に関わっています。特徴として、感情を良くも悪くも揺さぶるものはニュートラルなものより記憶に残ります。ムカつく歌が流れるCMに効果があるのはこのためです。
感情は大脳辺縁系が係を担当していますが、この中にある扁桃体(amygdala)は海馬のすぐ横にあり、扁桃体は恐怖感の係なので、恐怖記憶はより強く残るように設計されているということになります。危機管理は生死に関わりますから、恐怖の記憶が大事にされるのはわかるのですが、過剰になると恐怖症・不安症などに悩まされるという側面もあるわけです。
身体で覚える手続き記憶では、大脳基底核(basal ganglia)のエレメントである線条体(被殻+尾状核)、前頭葉、小脳が管理を担っています。つまり、随意的な動きの管理を行っているわけなのです。脳の部位と役目については、Human Brain:脳のページをご参照ください。

記憶とは一口に言えど、このように管理が分担されているため、ダメージを受ける脳の場所によって記憶に関する症状が変わってきます。ここではケーススタディ含めた詳しい病理は説明しませんが(調べる場合はcase study H.M.とcase study N.A.が代表的です)、記憶障害について少しだけ記述しておきます。
逆行性健忘症(retrograde amnesia)は過去の出来事を忘れてしまうもので、いわゆる記憶喪失です。これに対し前向性健忘症(anterograde amnesia)は過去のことは覚えているのに、瞬間から先のことが覚えていられません。つまり、情報が積み重ねられていかないので、喉が渇いて冷蔵庫に向かっても何をしに来たのか忘れてしまいます。

記憶の固定化は、鬱やストレスを経験しているときには効率的に行われません。例は宣伝と購買意欲の心理学をご参照ください。また、記憶の固定化は睡眠によって効率を上げます。こちらについてはSleep:睡眠のページ及び夢に意味はあるのかで説明しています。


参考:
A Guide to Psychobiology, Henry Heffner, 2011
Cognition, Margaret W. Matlin, 2008
Achieving Optimal Memory, Aaron P. Nelson, 2005


Posts

Share this on... 
Page Top
Home


SPECIAL ISSUES