こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

Stress ストレス

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ストレスは万病のもと。人により自分の身体の一番弱いところにその影響が出る(weakest link)とも言われますが、一般にストレスによって分泌されるホルモンのコルチゾルが免疫力を低下させるため風邪をはじめとするあらゆる感染症にかかりやすくなったり癌の発生率が高くなったりするとされています。またコルチゾールが血圧を上げる効果もあることから心臓病などの発生にも関わってきます。どんなことが自分にとってストレスになるか、自己の思考・行動傾向をよく理解し、ストレスとの付き合い方を学ぶことが健康保全に必須です。心と身体は一体。総合的に健康を考えましょう。


What Is Stressor? - ストレッサーとは -
"stress"とは何かしらの身体の反応のことを言い、それを生み出すものが"stressor"です。
生きている限り、stressorから自分たちを切り離すことは不可能です。というのは、適度なストレスは私達を生かすという役割を有しています(eustress)。例えば、トイレに行けないときのイライラや小さなとげがチクチクするときなどの不快感は私達の身体が生命維持を目的として正常に保たれる(homeostasis:ホメオスタシス)ために必要なストレスなのです(Selye)。これに対し、ホメオスタシスとは関係のない不快感をもたらすストレス(distress)は健康を害する、必要のないものとなります。
以下、好ましくない、不要なストレスの生まれる状況です。
♣ stressor(ストレッサー)は通常以下の三つの状況において研究されます。
  • 大災害 ・・・ 大地震、ハリケーン、戦争等
  • 大きい変化 ・・・ 結婚、離婚、親の死去、転職、就職、入学
  • 小さい変化 ・・・ 渋滞、騒音、列に並ぶこと

♣ 外的要因だけでなく、内的要因でもstressが生まれます。 
  • 不満(frustration)・・・ 目的が達成されないためのイライラ
  • 葛藤(conflict)・・・ 二つ以上の願望が働いているときのイライラで、三つのタイプあり
    • approach-approach conflict = 二者択一の葛藤
    • approach-avoidance conflict = 一利一害の葛藤
    • avoidance-avoidance conflict = 二者択一(どちらも望まない選択肢=背水の陣)の葛藤
  • 圧力(pressure)・・・ 何かを強要されたときに期待に応えなければと思うときのイライラ


Stress Hormones - ストレスホルモン -
私たちが不快を感じる状況(stressor)を迎えると、stressorは脳の視床下部を刺激して(CRH)下垂体に働きかけ(ACTH)、最終的に副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾル・ノルアドレナリン・アドレナリンが血中に分泌されます。 それぞれがどんなことをするのか・・・
  • アドレナリン(epinephrine)・・・ ノルアドレナリンとペアで働きますが、stressorに対して瞬時に反応するのが特徴で、"fight or flight hormone"とも呼ばれます。"fight or flight"とは心理学では年柄年中出てくるキーワードで、学術的には「戦うか逃げるか」と表現されますが、もっと庶民的に言うと「やるかびびるか」ということになります。例えば、街で血気盛んな人とぶつかってしまい、「やんのかこのやろう」とどなられた時などに戦いに挑むかビビり上がるかいずれかの心境・反応が生まれ、どちらにしても心臓はどきどきします。これがアドレナリンのなす技です。
    例では、乗ると言ったはよいが、高さにおののいてビビるジェットコースターの乗り口。同じように心臓がバクバクして息も荒くなります。このような"fight or flight"反応を引き起こす乗り物をどう楽しむか、アドレナリンの使い方を知っている人は強いようです。
    尚、アドレナリンはとっさの大きな力を出す効果も持っており、普段では到底出せない火事場のくそ力はアドレナリンで引き起こされます。
  • ノルアドレナリン(norepinephrine)・・・ アドレナリンと同じ役目ですが、血流を采配する役目もあります。例えば手先足先にあった血液は、とっさに反応して動きをよくするために筋肉へとより多く集められます。「血の気が引く」という表現はノルアドレナリンが行っている仕事のせいであり、比喩ではなく科学的事実と言えるわけですね。
  • コルチゾル(cortisol)・・・ ストレスホルモンというと、だいたいコルチゾルのことを指します。小さなストレスを感じることは私たちの身体が正常に保たれるには必要不可欠です。しかし、長いことコルチゾルにさらされると、免疫機能は低下、血圧・血糖は上昇、性欲は減退、その他お肌の問題や肥満の増加を起します。特に胃腸は、脳と脊髄を合わせたのと同じ数の神経細胞があり、stressorに対して直接のセンサーとなり芳しくない症状を出します。たまに刑事物のドラマでグロテスクな死体を見て嘔吐する新人刑事がいますが、あれもストレスホルモンによるもので、急激な反応も起します(急性ストレス反応)。おおげさだと思われる方もいるかもしれませんが、本当に起こりますよ。著者の場合はですが、血の気が引き始めて「まさか、大丈夫でしょう」と言い聞かせてから12秒ほどかかりました。


Physiological Changes - 身体的影響 -
♣ Selyeはストレスの原因が何であれ、あわられる一般的な反応をGeneral Adaptation Syndromeと名付け、3つの段階に分けました。
1. Alarm Reaction ・・・stressorが視床下部を刺激し、corticotropin-releasing hormone (CRH)が出されます。このホルモンが脳下垂体(pituitary gland)からadrenocorticotropic hormone (ACTH)が出るように促します。血中のACTH量に応じてストレスホルモンのコルチゾル(glucocorticoid)が副腎皮質から分泌されます。更なるstressorに対する抵抗力を低くし、よって病気になりやすさをより高めることになります。
2. Resistance ・・・引き続きストレッサーが刺激を止めないでいると、身体は身体の内側にあるものを使って平常に戻ろうとしますが、ストレス耐性は更に下がります。
3. Exhaustion ・・・ストレッサーに対する盾はもうありません。追加されるストレスが起これば身体の機能は完全にメチャメチャになり、最悪の場合死を招きます。

♣ 長期に渡ってストレッサーに身をさらすことは、身体のあちこちに障害をもたらし、余計な健康問題を生んでしまいます。現在確認されている影響(参考:WebMD
心臓病 | 胃腸疾患 | 肌荒れ・ニキビ | 喘息 | 肥満 | 糖尿病 | 不安症・鬱

この他、免疫機能の低下から風邪を始めとするあらゆる感染症にかかる危険性を増します。更にはストレスホルモンが間接的に脳内の酵素を活性化させ、記憶にも支障を及ぼします(Birnbaum et al. 2004)。また、筋肉をこわばらせることにより肩こりや偏頭痛も起こします。胃腸疾患については下で説明します。


参考:
An Invitation to Health, Dianne Hales 2005
Neuroscience-Exploring the Brain, Mark F. Bear et al. 2007


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