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夢に意味はあるのか: フロイト vs 認知心理学

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朝起きて、なんだかとても不思議な夢を見たなぁと思う時、誰かにその話を聞いてもらいたくなったりします。日中になってすっかり忘れてしまうこともあれば、いつまでたっても覚えていることもあります。誰かが亡くなる直前に夢枕に立ったりという話も聞きます。音楽家では夢の中で曲が流れてきたのを起きてから譜面に起こすなんていうこともあるそうです。
これらの不思議のため、夢には意味やメッセージがあると考える人は沢山います。それを事実と信じるか信じないかは個人次第ですが、ここでは心理学で扱われる夢についての説明をご紹介することにします。

夢に意味があるとした人は、精神分析医であったシグムンド・フロイトです。彼は人間の行動の理解には無意識(subconsciousness)の中に鍵があるのだとしました。無意識には抑圧された願望が詰まっており、これが夢で顕になるとするのです。ネガティブな内容の夢なら警告もしくは克服の願望を表し、これらを本人に伝えようとしているのだとします。彼の手法は患者からどんな夢を見たかを引き出して、問題行動の解決に挑もうとするもの(free association)です。
彼の著書であるThe Interpretation of Dreams(夢の解釈)は1899年に出版されましたが、長い間注目され、一般の間では今も尚フロイトと心理学というパッケージは残っています。

フロイトに認知心理学は異議を唱えます。「無意識とは不可視。不可視をどのように測定するの?数値化できないものは科学にはなり得ない。」といった具合です。
この論が現代では台頭です。心理学は数字を使った科学。フロイトが仮説を導き出した観察結果は経験的であり、被観察者もランダムに選出されていないことから、科学的信憑性及び妥当性を欠くとされています(科学的手法参照)。

認知心理学の理論では、夢は寝ている間にも私たちの脳が活動していることの証になるものとします。更に、夢は学習や記憶の強化につながっているのだとします。これまでの過去に見たり聞いたりした情報が整理・復習される工程で見るものが夢、という仕組みです。昼寝でもその日に学習したことが強化される効果があることが、最近の研究で明らかになりました(2010)。
また、気分も関与し、よい気分で寝ると良い夢を、逆に荒れた気分で寝れば悪い夢を見るということで、認知の慣性が分かります。

夢はその日に起きたことと15年も前に起きたことを同時に映し出したりします。自分が注意していないところで目に映ったもの、耳に入ったものも脳には登録されているため、それらも夢に現れたりします。夢はこれらの記憶の断片を寄せ集めて作られ、脳が全体的なストーリーとして理解しようとするよう(ゲシュタルト心理学)機能をしています。なので、本来夢に顕れるものが、フロイトの言うような意味を持つものではないということが原則となります。しかし、夢を見るという行動自体は学習にとって意味があるということです。
学習量が多くないシルバー年代になってくると、鮮明な夢を見るREM睡眠の時間が減ります(詳しくは睡眠周期)。

寝ている間も脳が活動していることは、冒頭の音楽家が睡眠中に作曲してしまうことを説明するわけですね。
こういった認知的作業の結果の他、体験したことを復習するときの産物が夢というならば、体験したこともないのに、空を飛んだりする夢を見るのは何故なのか・・・

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