こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

恐怖症

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見るだけでも嫌いなもの、恐怖心を煽るものは人によって存在します。そもそも何故特定のものに対し嫌悪や恐怖を覚えるのでしょう。
生まれつき備わっている行動とする見方(nature派)では、恐怖心は私たちの生命を守る役目を果たすからだとします。
例えば、蛇を見て震えあがるのは蛇の毒によって殺されないようにする、生物的に組み込まれた危機回避もしくは自己防衛の行為という考えです。
しかし、危害を加えるとは思えない中性的なものに対する恐怖感はこれでは説明が付きません。

行動主義心理学のアプローチ(nurture派)では、なぜ恐怖症に至ってしまったか、いくつかの経緯が可能だとしています。
これらを例えのケースで説明します。ある男性は猫恐怖症です。ただ単に嫌いというものではなく、猫の影を感じることすら恐怖なので、猫を飼っているおうちを訪ねる時は彼が上がるスペースに猫がいないこと・来ないことを入り口で確認してからではないと、玄関のドアをまたぐことすらできません。
考えられる経緯は4つ。

可能性1:古典的条件づけ(classical conditioning)
身体的あるいは感情的に辛い経験と"猫"というものがたまたまくっついてしまい、どんな猫にも拒否を示すことを学習してしまった。
因みに、神戸連続児童殺傷事件の元少年Aの場合では猫を虐待中に精通が起こってしまったため、異常な暴力が性的興奮となる学習がなされたとするのもこの見方となります。

可能性2:観察学習(observational learning)
例えばお兄ちゃんが猫にひどくひっかかれたのを目撃するなど、他人の行動を観察することによって恐怖感を学習してしまった。

可能性3:ネガティブな情報(negative information)
メディア、例えばテレビの特集番組などで猫が特定の病原を媒体したなどの情報が取り上げられ、それを視聴するによって猫に対する強い否定的なイメージを植えつけてしまった。

可能性4:認知行動的見解(cognitive-behavioral perspective)
「猫は悪魔の手先でいつでも人を襲おうとしている」のような、歪曲した認識が恐怖を起こすことになった。

これらの可能性から、行動主義心理学に基づいた恐怖を取り除いていくための治療として、疑似体験療法・系統的脱感作・認知的再体制化・モデリング療法などが試されます。
薬治療ではベンゾディアゼピン(benzodiazepine)やセロトニン再取り込み阻害剤(SSRIs)が試されます。
恐怖症は不安症に分類される障害で、パニック障害との併発が多く見られます。不安症の全体像についてはまた別の記事で説明することにします。

恐怖症の代表的な対象物には、蜘蛛(arachnophobia)、先端(aichmophobia)、高所(acrophobia)、閉所(claustrophobia)などがあります。
これら特定の一種類のものに限った恐怖は specific phobias:単一恐怖 とされ、タイプとしては、動物・自然環境・注射および血液・状況・その他、に分けられます。
これに対し social phobias:社交恐怖 は対象が一つとは限らず社交およびパフォーマンスの状況に過剰な恐怖感を覚えることを言います。
代表的なものでは、人前で話すこと、新しい人との交流場、などがあります。社交恐怖の発症は思春期からであることが多く、管理や監督という、要は躾に『恥』という感情を利用する文化や、他人の意見に重きを置く文化に顕著に表れる障害とされています。
日本の家庭および学校において、他人を意識させることで自己の間違った行動を正すまたは改善を促すという教育の仕方はこの特徴に当てはめられます。恥を利用した管理は自尊心を下げることも行いますが、最近の研究では恥が他のどんな感情よりも脳に強いダメージを与えると発表されています(2014)ので、日本は社交恐怖症人口が多いと考えられますが、逸脱に達する線が引き上げられてしまうことからケアに赴く足が遠のく、もしくは自覚すら麻痺されるということは十分にあり得ます。

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