こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

大人のADHD/ADD イメージ能力

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私たちの認知的能力に、視覚空間能力(visuospatial skills)というものがあります。視覚から2Dおよび3D像を処理し把握する能力のことです。
現在までのところ、男性の方が女性よりこの能力に優れているとされています。 この差が生得的なものか学習によるものか(Nature vs Nurture)は結構な激しい論争で、社会的影響によって男性が後天的に視覚空間能力を発達させたとする派(Nurture側)は、Nature派に強く反発するのですが、出生後5ヶ月で既に、男児・女児の間でメンタルローテーション力(図形を頭の中で回転させる力)の差が見られたという実験結果がUCLAから報告されています(2008)。

視覚空間能力の発揮には、メンタルローテーションしかり、頭の中での絵の想像、認知心理学用語で言われるところの"mental image:心的イメージ"が駆使されなければなりません。具体的な例えで言うと、建築用の青写真や不動産屋に貼られる部屋の間取りなどの平面図を頭の中で立体化する作業や、狭い車道・車庫などと車幅を照らし合わせる作業などで必要です。

視覚空間能力の欠陥は、ADHD/ADD患者に多く見られるのですが(2003)、mental image自体ができないことが見受けられ、これを使って行う通常苦にならない作業でも以下のように難を示すことがあります。

  • 頭の中で地図が描けない
  • 長く住んでいる自分の街であっても、どこがどの道につながっている、どっちが北などの図を頭の中で作ることが難しいため、一本道を間違えてしまうとぐるぐる回ってしまうというようなことがあります。知らない道では目的地までたどり着いたはいいが、来た道を戻れないこともあります。現代ではGPSで救われています。

  • 映像の巻き戻しができない
  • 鍵や財布などを失くした時、最後に取り出した記憶のある場所から動向を振り返ると、置いたところが大体限定されて見つかりやすいものですが、絵が浮かばないとこれはできることではありません。よって、置いた場所の見当が付かず、しらみつぶしに家中を探すのは日課・・・ということがよくあります。
    また、綺麗に箱や棚に整頓されていたものを取り出したりするとき、最初の状態がどうだったかが浮かばないため、取り出し前と後の絵を比較をすることができず全く違うところに戻したり、戻せず出しっぱなしということも起こります。

  • 目標達成までのプランが立てられない
  • 最終的にいついつまでにはこれを達成する、という目標設定をする際には、達成の時点から逆算を行って最初の一歩目からのプランが立てられます。時軸を空間に置き換えてのイメージです。逆算とワンステップずつのビジュアル化に及ぶことができず、目標達成までの具体的なプランを立てることは非常に難しくなります。
    これは目標の規模や達成までの期間の長さに関係はなく、はたきを高いところから順に掛けてから最後に掃除機・・・のようなものでも難しいので、作業が二度手間ということが多くなります。二度手間でもなんとかなるものはよいのですが、取り返しがつかない事項の場合でも順序が狂ってしまう傾向があります。
    このような、どこから手を着けてよいか分からない感は万事共通なので、学校の勉強だけでなく家庭内のちょっとしたことでも分からないまま放ってしまうという傾向を引き起こしがちです。指導者及びパートナーは、一つずつ指示を出して作業を進めさせる手助けをすることが必要です。

  • 暗算ができない
  • 頭の中での計算、つまり暗算ではイメージの対象が数字になります(そろばん経験者は玉はじき)。イメージが留まることがないせいで、どこかの数字を違う数字と入れ替えてしまったりするミスが起こります。単純な26+11のような計算でも起こることなので、厳しい批評を幼い頃から経験してしまいます。また、漢字を覚えるようなことも難を極めるため、学業にハンディキャップを背負います。

  • 記憶は言葉で表される
  • 記憶がイメージとして浮かばないとは、記憶を喪失してしまうということではありません。例えば先週の日曜日に彼女とぶらり買い物に行ってレストランでスパゲティーを食べたことはちゃんと覚えています。しかし、その記憶を「絵」に起こすことができないため、彼女がその日着ていた服は浮かんでもぼんやりが限界です。大事な日のことであっても症状は変わらないので、「二人の大事な日のことなのに」と責められてしまうこともありがちです。
    過去の思い出や何かを頭で思い浮かべるときには「絵」ではなく「言葉」で行われる場合があります。人によりですが、考え事中無声ではありますが、口がしゃべっているように動く場合もあります。

以上がmental imageの力が欠損した場合の症状でした。
これらは、ワーキングメモリーという瞬間瞬間に働いている記憶を留める際に、神経伝達物質の働きの異常性から自己の内外にある刺激・情報に注意が拡散してしまう、というADHD/ADDのコア症状の影響結果でもあります。

認知機能の検査として使われることがある視覚選択注意力のテストのサンプルは別のページで上げています。→ Sample

vol.3は原因・タイプ・治療について
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