こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

カルチャーショック:文化と自己

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アメリカ一軒家裏庭でのテーブル
文化は自己形成の要素です(The Self 自己 参照)。
インターネットのおかげで画像や動画から異文化の様子を個人単位で学習することは可能になりましたが、実体験となると自分の身は異文化の要素にすっぽりと包みこまれます。
住み慣れている日本から一歩外へ出て違う文化の中で生活を始めると、最初のうちは目新しいものに心を弾ませ興奮状態になります。しかし、慣れが功を奏して興奮が治まると、自己を形成しているもとの文化とのギャップを確認できるようになります。そして、自己が有する全てのものが新しい社会では有効性を欠くことを自覚するとき、不安が起こりストレスを生み、あらゆる違いに嫌悪を持ったり新しい社会や文化を丸ごと拒否するほどになったりします。

特定の異文化が個人に与える衝撃を "culture shock:カルチャーショック" と言います。この言葉は人類学者のOberg氏によって誕生し、次のように定義・説明されます。
"カルチャーショックとは、普段見慣れている社会の中のものが目の前からなくなる不安によって起こるもので、見慣れているものとは日常の社会生活行動も含む。つまりそれは文化・習慣・言語・価値観などのことであり、心の平和のために私たちは気付きもせずこれらに依存しているのである。"

カルチャーショックには段階があります。Gullahorn氏はこの段階が以下のように進んでいくのだと説きます。(学者により段階の名前や区切りを変えてみたりしますが、心理・行動の変化がU字になるのは共通です。これを基本とし波を付け加える学者もあります。)
縦軸が幸福感、横軸が時間経過です。
1 honeymoon phase(新しい文化に胸躍る)
2 culture shock phase(衝撃をくらう)
3 recovery phase(回復に向かう)
4 adjustment phase(適応性が付く)

参考:
Communication Between Cultures, Larry A. Samovar & Richard E. Porter, 2003, Wadsworth


囲まれる環境に順応して生きていくのが私たちなので、環境が変わると順応過程で得た経験や能力並びに価値観を一旦捨てて再形成するか、最低限調整をしていかなければなりません。それは自分という完成したパズルのピースを抜いていくようなものなので、アイデンティティーを失うような感覚が起き、これが不安をもたらすのです。恐怖を覚えるのも異常ではありません。これがOberg氏の意味した"依存"です。

さてでは、カルチャーショックでパニックに陥ったり極度の不安を感じることへの対処が問われてきます。上のグラフで気分が下降線を辿る時期では、社会から退いていくよりも、進んで社会とのつながりを強化するようにすると浮き上がりが速いとされています。
順応という歯車が回り出すと、新しい文化および社会での過ごし方・自己のスタンスなどが掴めてきます。
負の部分に固執すると、危機から脱することに失敗し、鬱を発症してしまうケースもあります。ストレス耐性は人により異なりますので、無理せず自己を確立する気持ちが大事です。


違う文化への順応が済んだ後、今度はもともとの自分の文化へ帰ると、新たに「これもあれも違う」というカルチャーショックを味わいます。これを"reverse culture shock"(リバースカルチャーショック)と言います。

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