こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

心理学:後ろ向き思考

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ネガティブなことばかり頭に浮かんでしまい気分を落としてしまうという個人は少なくありません。このネガティブな事柄とは、目の前に現在進行形で起きていることよりもむしろ頭の中の想像であることの方が多く、思考という認知機能から気分が作り出されます。

ぐちゃぐちゃ考えることを "rumination" と言います。辞書(weblio)で調べると『沈思黙考,熟慮』と、かっこよく聞こえる訳になっていますが、何かの問題に関して策を練るような思考ではなく、過去の暗い出来事についての反芻で、堂々巡りな考えを浮かべ続けることを言います。

例えば、上司に皆の前で「お前何年この仕事やってんだよ」と言われたことを思い出し、
  • 上司がわざわざ人前で言ったこと
  • 自分はなんて初歩的なミスをおかしてしまったのかということ
  • 周りにいた人に自分は馬鹿だと思われたに違いないと思うこと
  • 言われた後の空気の重さ、嫌な雰囲気
  • などを頭の中でリピートするようなことです。

    ちなみに人前で怒られるときに発生する『恥・辱』の感情(humiliation)では、怒りや喜びの感情よりも強く脳が反応を起こします(Otten & Jonas, 2014)。
    強い感情は記憶の固定率の高さにつながってはくるわけですが、辱めに限らずネガティブな体験のruminationによる健康への悪影響が指摘されており(response cycle theory, Nolen-Hoeksema)、意識して気分転換を行うなど自己にあった策を持つことが勧められます。

    そこまで自虐的に嫌な出来事を頭の中で繰り返さなくたとて、後悔の念くらいは誰にだってあります。どうして、もうあと1分早く家を出なかったのかと、そうすればバスに間に合って遅刻しなかったのにと。
    このような思考は "counterfactual thinking:反実仮想" と言い、『事実とは異なる、違った結果を思い浮かべること』と定義されています。

    Medvec他の研究によると、銀メダリストでは「あの時ああしておけば金だった」という反実仮想が顕著に見られ、むしろ銅メダリストより低い幸福度を示したということです(1995)。 この他、選挙でほんの少しの差で負けた場合に強い執着が残ったりする(Sanna et al., 2003)など、実際の結果ともう一方の結果を得るための差が少なければ少ないほど強く表れます。

    反実仮想はプラスに働けば更なる挑戦への努力意欲を湧かせますが(Nasco & Marsh, 1999)、マイナスに働く場合では上で述べたruminationとなり、鬱の要因になってしまう可能性がある(Ward, 2003)とされます。
    つまり、上の例で言うならば、次の日からこれまでより5分早く出る努力をする気を起こせばプラスですが、「なんでだー」「やってしまった」と執着すればどんどんと気が滅入ってしまうわけなのです。切り替えは大事ということですね。

    以上、暗い気持ちを作ってしまう出来事の捉え方でした。これら思考と気分について認知心理学で研究されたものは、精神健康(異常心理学)や社会的世界(社会心理学)の理解に応用されています。
    ネガティブ/ポジティブ思考の素因についてはセロトニンについての記事をご参照ください。

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    参考:Social Psychology, Elliot Aronson et al. 2010

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