こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

他人を理解するときの心理学

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私たちが他人を見るときに最小のエネルギーを使って行うこと、社会心理学で学習される内容をご紹介します。

人間は、分からないこと=不確実性、を好みません。それは問題解決欲と言ってもいいのではないかと思います。問題がある場合はそれを限りなく撲滅したい欲です。
自ら進んで解決し問題を目の前からなくす人と、問題の存在を無視することで目の前に問題は無いことにする人、どちらもいるわけですが。問題を認識すると心が落ち着かなかったりで、多かれ少なかれストレスになるのです。
端的に言ってしまえば、「不確実性=ストレス」となるわけで、動物はストレスを取り除くように設計されていますから、いずれかの手段でうまくやることを見つけるのですね。

以下、他人についての不確実性を経験するとき、私たちが行いがちな傾向です。
他人を本当に理解しているかどうか、また逆に他人は自分を本当に理解しているのか、読み終わりに考察してみてください。

  • 人柄を見て
  • 実際に目の前にでも、想像でも構いませんが、ちょっとだけ知っている他人が一人そこにいます。「この人、本当はどんな人かしら」と、その人に関する情報が足りない時、不確実性を認識します。そこで私たちが行うことは穴埋め作業です。この他人に対して知っているいくつかの情報を元に、足りない部分を勝手に作成します。
    分かっている部分の性格と穴埋めする部分の性格はだいたいセットになっていて(Asch, 1946 他)、親切な人ならば寛容な人であろうというスキーマがあるとする説を "implicit personality theory" と言います。いつも大人しい同僚に対し「大人しいから、気が長いだろう」という性格のイメージを出来上がらせることとかあるわけです。
    しかしながら自分のイメージしたものが真実とは限らず、例えばこの同僚と二人でランチにレストランへ行くと食べ物が出てくるのが遅く、同僚は大変イライラして他の店へ行こうと席を立つような短気な部分を持っているかもしれないのです。
    犯罪などが明らかになったときに、近所の人が「そんな風には見えなかったけど」と語るのも、犯罪者の一面だけを見て性格を想像しいい人として認識していたことによるものですよね。

  • 行動を見て
  • では、他人の行動についてはどうなのか。これは人間性をジャッジしてしまうで詳しく説明していますが、簡単におさらいしておきます。
    誰かの特定の行動の理由が明確でないとき、例えば待ち合わせに遅れたなどの場合、ちょっとした事故で電車が遅れたための遅刻だったにも関わらず、「お前がぐずぐずしていたから」と遅れた本人のせいにしてしまうことがあります。これは問題の原因を環境にあることを考え(external attribution)もせず、人間性に原因があるとしており(internal attribution)、間違い(fundamental attribution error)を犯していることになります。
    環境の影響を考えず、単純に「お前が悪い」とすることは誠に端的で、"よく考える"ということに脳あるいは心のエネルギーを使いません。よって、このような思考に掛かるエネルギーと時間を出し惜しみする人を "cognitive mizer"(認知的ケチ)とし、これはストレス反応の記事でも出てきたTaylor博士によって名付けられました。

  • 自分と照らし合わせて
  • 三つ目は近しい者の間でも起こっていることで、認識違いでも取り上げられていることと重なります。
    他人の思考はもちろん自分のものではないため、分からないものとして放っておくよりやはり穴埋めを行うのですが、自分の思考をそのまま他人に投影します。これは "projection bias" と呼ばれる認知的な投影のことで、フロイトの掲げる投影とはまた別のものです。自分の見る世界に相手も住んでいるという認知から、ピアジェの言う自己中心性(egocentrism)と言ってもさほど変わりませんが。
    例えば、一組のカップルのうちの女性が「一人にして」と申したので、男性は一人の時間を大事にする自分の思考を女性に投影して一人にさせようとします。するとどうなるか・・・「なんで追いかけてこないのよ!」ということになりがちです。他人が何を考えた上での行動なのか、確かでない場合は自己のパターンを採用して問題解決に臨もうとするわけです。

また、外見からしてその人の情報が乏しすぎる場合に分かろうとすることを面倒くさがると、不確実性の認識を無視すらしようとする、つまりその人物ごと拒否をすることもある私たちです。この仕組みが偏見(prejudice)へとつながっていきます。行動に移されれば差別(discrimination)となります。この傾向による行動は以下をご参照ください。

  • 外人は皆同じに見える
  • 差別:本音と建前
  • 意地悪といじめ

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