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こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

おなかゴロゴロ乳糖不耐症と遺伝

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"あどけなさを残している"という表現があります。
大人なのに良い意味で子供の特徴を有していること表します。

幼少に見られる特徴が大人になっても残っていることを"neoteny"と言い、猫の目が大きいのも例の一つです。辞書では「幼形成熟」とされていますが、大人になっても保たれる特徴は見かけだけのことに限りません。

例えば・・・
牛乳を飲むとおなががゴロゴロして駄目だ
と言う人口があります。 生まれてすぐから乳を飲んで育ったのにも関わらず、乳に対する耐性がなくなってしまうのです。これはアレルギーから来るものではありません。
乳には乳糖(lactose:ラクトース)が含まれており、これを分解する酵素(lactase:ラクターゼ)は乳幼児が備えているものです。乳糖はラクターゼによって、ぶどう糖(glucose)とガラクトース(galactose)に分解されると小腸で吸収されていきます。
ところが大人になるにつれラクターゼが減少し、それにより分解力がなくなると乳を消化できず、乳糖は大腸へ流れていきます。ここで大腸菌の働きにより、乳糖は水素・メタン・二酸化炭素・脂肪酸等に変換され、浸透圧による過剰な水分と重なって膨満感・おなら・腹痛・下痢などの症状を引き起こします。これは乳糖不耐症(lactose intolerance)と呼ばれます。
ちなみに日本人を含める東アジア人系の人種は世界でも最も乳糖不耐症人口が多く、地域によっては大人全体の90%が悩まされているとのことです(Genetic Home Reference)。
通常は年齢の増加に伴ってラクターゼを失っていく私たちですが、北ヨーロッパ人・北西アフリカ人ではラクターゼの生成が衰えず(lactase persistence)、乳糖不耐症人口が極端に少なくなります。これが乳幼児の特徴を大人になってもそのまま保っている、neotenyの例です。
下の分布図はラクターゼを保ち続ける人口の割合を示したものです。

Image:Evolution of lactase persistence: an example of human niche construction


大人になるにつれて乳糖への耐性を弱めるのは遺伝子LCTの活動低下によるものです。この遺伝子LCTの発現は隣接遺伝子MCM6内の核酸塩基の配列によって管理されており、北ヨーロッパ人や北西アフリカ人は他の人種とは異なっているのだとか(SNPs:−13910*T, −14010*C )。この変異が小腸でのラクターゼ生成を可能にしていることになります。
変異の歴史を調べてみると、畜産・酪農が始まった時代と一致するということで、乳製品を取るようになって遺伝子に変化が起こったのか、それとも元々変異した遺伝子を持っていた者が乳製品で生き延びた(selection)結果なのかという二つの説が存在すします。しかし、多くの研究・調査結果を並べてみると、どうやら遺伝子は乳より後という説が優勢だそうです。

尚、ラクターゼ生成が遺伝子的に組み込まれていない大人でもおなかがゴロゴロしないのは、大腸に乳酸菌がいてくれているからだそうで、「ヨーグルトなら大丈夫」ということが納得いきます。

考察: 栄養源を乳に依存する地域以外では、乳幼児期が過ぎたら乳はそれほど必要ない?
おなかを壊してまで無理して飲む必要はないかもしれません。むしろ・・・
ScienceDailyで紹介されたInternational Journal of Cancerの調査では、乳糖の摂取量が卵巣癌と比例関係にあるという結果が報告されています。消化器系では、乳糖不耐症で起こる炎症から、新細胞が癌細胞として作られてしまうという懸念はあります。

どういう運びでこの案が上がったのかは定かではないのですが、新潟県の三条市は2014年12月から2015年3月の4ヶ月間、学校給食での牛乳を試験的に停止します(朝日新聞)。他の新聞では「そもそもご飯と牛乳は合わない」「アレルギーがあるから丁度良い」などの意見が載せられていました。ただ、「現代の日本人の食生活から考えると牛乳が一番のカルシウム源なのに、それをどう埋め合わせるのかしら?」という栄養専門家の声も聞かれました。
もともと乳糖への耐性が低い日本人なので、著者個人的には撤廃でも構わないと思いますが、その代わり牛乳を摂りたい子供のための持込み(未開封に限る)をOKにすることと、腐敗防止のための冷蔵庫を設置するということはやってもらわないとかなと思います。指導と管理が行き届きそうになければ、注文制にするかですよね。


参考:
Evolution of lactase persistence: an example of human niche construction, Royal Society Publishing, 2011
A Guide to Psychobiology, Henry Heffner, 2011
Nutrition:Concepts and Controversies, Frances Sizer et al., 2010

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