こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

プライミングのちから

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私たちが無意識に起している行動は、脳にとっては無意識ではありません。

え・・・?

例えば、なぜかわからないけど和風おろしハンバーグが食べたくて仕方がないときとかあります。 「きっと身体が大根おろしを欲している生理状態なのに違いない」と、大した事でもないので素直におろしバーグをレストランで食べることにします。
ところが、今日に限っておろしバーグが大量に注文され、売り切れだと。 何故、皆が自分と同じものを食べたがったのか、脳みそがつながっているのかしら?と少しばかり疑問を強め始めます。

これは "priming:プライミング" と呼ばれる認知的プロセスによって起こり得ます。
プライミングとはすなわち下地作りのことなのですが、具体的に言うとここでは決断の前に決断へと導かせるトリガーになるものを提示することです。
おろしバーグを頼む決断は、事前におろしバーグの映像・画像か、もしくはそれを連想させる文字・言葉の提示によってされた導かれた可能性があるです。
会社で隣の席の人が「昨日のおろしハンバーグおいしかった」と言っていたのかもしれません。ここでは複数の人に共通しておろしバーグ欲が現れたことから、恐らく街や電車内の広告か、皆がよく閲覧するようなニュースサイト、あるいはテレビ放送でコミュニケーションされた=プライミングがあったのだと思われます。

ちょっと前まで頻繁にテレビで取り上げられた"メンタリズム"のからくりがプライミングです。参加者はメンタリストと同じ色のボールを選んでいました。あれはプライミングにより、参加者がメンタリストの決めた色を選ぶように導かれていたのでした。
自分では全く意識していなくても、情報やメッセージは脳にきちんと運ばれて処理されています。脳は何が情報として入ってきたか把握しているのです。そして入ってきたばかりの情報はすぐに取り出しやすい状態にあるので、呼び出しをすると奥の方にあるものよりも先に出てきます。
この性質から、事前に得たおろしバーグ情報は、「おなかがすいたから何かを食べたい」という呼び出しに即座に反応し、「では、おろしバーグを」という一番エネルギーを使わないで済む決断が下されがちになり、結果としてプライミングが個人の決断を左右するということになります。
このような判断に取り出しやすい情報が使われることを利用可能性ヒューリスティック(availability heuristic)と言います。こちらは長年の勘とかのページで説明します。

ということで、脳が得た静かとてパワフルな下地情報"プライミング"が、私たちの意識を必要とすることなく決断に手を加えている、ということでした。

ちなみに、プライミングの一つの形として使われることがある(あった)のが"サブリミナル効果"というものです。認識できないようなレベルの音ないし映像情報(subliminal stimuli)を繰り返し浴びることで、その情報を個人の中に定着させて行動をコントロールすることを言いますが、心理科学的には効果は認められておらず、研究結果として、厳重に管理された実験室内のみ有効(Dijksterhuis et al., 2005)とされています。有名な実験は"Lipton Ice"(リプトンのアイスティー)を使ったもの(Karremans et al., 2006)で、その他続く実験も同じ見解を発表しています。
尚、オーディオなどで試される自己啓発・記憶力UP・禁煙・ダイエット等に関するサブリミナルメッセージも効果はないという結果が多くの研究で出されています(Pratkanis et al., 1992)。

2は宣伝の心理学
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