人間を含める全ての動物は、脅威の瞬間や摂理に沿わない環境を迎えるとストレスを感じます。不快を感じさせてストレスの素(ストレッサー)を取り除く衝動が起こらなければ、その生物の生命存続が危ぶまれることになってしまうのです。
排泄が出来ないときの不快感、腹ペコ時のイライラ感などのストレス(eustress)は、もし発生しなければそれぞれ膀胱の破裂や栄養失調を招きます。これらの状態は解決されればストレスは消えます。しかしこれらとは別の、生命存続とは関係のない"列に並ぶこと"のようなことでもストレス(distress)が起こることともセットになっており、長期に渡ってストレスホルモンを浴びることになると、精神・身体に害が及びます。本来は生存率を高めるための機能が、自身を攻撃するものにもなり得るわけです。
さて、本題に入ります。
ストレスと男女については、心理学ではかれこれ研究がなされています。
女性の方がストレスに敏感であるということは、鬱およびストレスが関係する障害(PTSD・不安症等)の報告数の多さ、女性は男性の2倍ということ(National Institutes of Mental Health)、から言われていました。しかし、裏付けとなる脳や遺伝子などの生物学的証拠がつかめなかったため、女性の方が専門家に助けを求める率が男性より多いだけのことかもしれない、というところで長いこと留まっていたのです。
2010年、The Children's Hospital of Philadelphiaが行った脳科学実験により、やっと生物学的証拠と言える発見がなされました。マウスのメスの脳は"CRT"と呼ばれる、異常事態を知らせる物質に、オスよりも敏感に反応するという発見で、人間にも適応されるというものです。
進化心理の観点から見れば、女性は男性に比べて瞬発力や筋力に劣るので、自分の身と我が子を守るための異常事態にいち早く気付く、又は敏感である必要性から発達した特徴と考えることができます。
この観点をサポートし得るのが、Shelley E. Taylor博士による研究で、ストレス発生時の反応が男女で異なるとされるものです。
これまでの学習では、人間がストレスを体験するときは"fight or flight"(やるか逃げるか)という反応を示すという説明だったのです。Taylor博士は、この反応は男性に特徴的に見られるものであり、女性は"tend and befriend"という反応を示すとしています。fight or flightはやるか逃げるかの葛藤を生じ、戦闘態勢を整えるなど"攻撃性"を帯びるのに対し、tend and befriendは仲間とのつながりを強くしようとしたり、我が子の身の安全に精神を注ぐことで自己を支ようとするものとされます(Biobehavioral responses to...)。
これらの研究から、ストレスへの敏感性並びに反応が男女で異なることが認められ、理解および管理が向上していくこととなるでしょう。
CRT敏感性の研究を行なったチーム長であるDr. Valentinoは、CRTを阻害する薬剤(鬱治療に使われます)の処方量が男女によって変えられるべきとなることを指摘しています(参考:The Telegraph)。
尚、幼年心理学からの報告ですが、いじめにおいて男児は身体的攻撃が多く、女児は人間関係攻撃が多いとのことです。上のことを考慮した場合、ストレス対策として取られるであろう行動を直接先手を打つかのように攻めていると見ることができるのではないでしょうか。攻撃の男女別特徴も生得的なものなのか・・・そんな考察を迫られます。
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