こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

身体表現性障害

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『精神障害の診断と統計の手引き』(通称:DSM)に、身体表現性障害(somatoform disorders)と呼ばれるものがあります。 この障害は、生理学的根拠が見つからないのにも関わらず、身体的な症状を訴えるもので、本人は実際に病んでいても、仮病の痛みの訴えと混同されやすい特徴があります。
DSM-IV-TRでは身体醜形障害(body dysmorphic disorder)がこのカテゴリにありましたが、新バージョンDSM-5(2013)では、強迫性障害(OCD)のカテゴリに移動になりました。据え置きの主な4つを挙げます。

somatization disorder(身体化障害)・・・異なる身体部位に4件以上痛み、2件以上の胃腸系に関する症状、1件以上の性的症状(生理不順・性欲なし・勃起不能など)、1件以上の擬似神経性症状(記憶障害など)が満たされる場合に診断される。上記は満たさないが、6ヶ月以上に渡って身体的に病んでいる場合は、undifferentiated somatoform disorderとして診断される。

conversion disorder(転換性障害)・・・hysteria(ヒステリー、病的興奮)とも呼ばれる。随意神経によって管理される感覚機能や運動機能の問題や欠陥を訴えるが、器質性の要因は見られない。

pain disorder(疼痛性障害)・・・身体性・神経性根拠が存在しないのに深刻な痛みを訴える・現状の身体状態で期待される以上の痛みを訴える・身体的損傷が治癒した後でも痛みを訴える、などがある。特徴として、幼年患者は訴える痛みの部位が腹・頭・脚に集中している。患者全体の中には、痛み止めや薬物の乱用に走るケースがある。

hypochondriasis(心気症)・・・器質性の問題は見つからないとする結果を前にしても、健康状態に対する固執した心配や不安を抱えるというのが症状。癌・心臓発作・脳腫瘍を心配する場合が特に多い。患者の特徴として、身体のことで常に頭がいっぱいであり、病気に対する恐怖が非常に強く、自分が何かしらの病気にかかっているという思い込みが激しい。

原因についてはそれぞれの分野で見解が出ています。
  • 生物学:生まれつきの敏感性や痛みに対する耐性の低さ、過去の病気やけがの経験による影響
  • サイコダイナミック:防衛本能が働いている =
    ①primary gain:患者の深層にある葛藤を自覚することから身体が患者を守ろうとしている
    ②secondary gain:個人の依存欲が他人からの注目と同情によって満たされる
  • 行動主義:病気になったときの扱われ方を学習し強化(reinforcement)される。不快な状況から逃避することができ、責任を逃れることができる。同じような行動をしていた親がモデルとなった。家族の中に、例えば身体障害者の兄弟など、慢性的疾病を患っている者がいる。
  • 認知:不安やストレスを起す事柄が起こると身体的反応を起こし、病気になると思い込み、更にその考えが身体的感覚を敏感にさせ、スパイラルにはまる(circular feedback)。
  • 社会・文化:身体的病はストレスに反応するアジア系アメリカ人に多い。心の葛藤が身体に表れる。逆に身体的不調が心の問題を引き起こすこともある。
おまけ:
世界的には、胃腸系と肌の感覚に異常を訴えるものが多い。アメリカでは生理痛、腹痛、胸痛が多い。その他では、中国で腎臓弱化、ナイジェリアで寒気とあつ気、日本では体臭が異常に気になるなどの症状の特徴が報告されています。


参考:
Understanding Abnormal Behavior, Stanley Sue et al. 2008

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