こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

強迫性障害

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強迫性障害(obsessive-compulsive disorders: OCD)は、精神疾患の診断マニュアルであるDSMの一つ前のバージョンまでは不安障害(anxiety disorders)のカテゴリーに属していたのですが、発症の男女比・脳神経回路の関与・他の不安障害で処方される薬の非有効性などをポイントとしてカテゴリーから独立されるべきだという主張が上がっており、新バージョンDSM-5(May, 2013)では念願かなって独立したカテゴリーとして確立されました。

OCDは強迫観念(obsessions)・強迫行為(compulsions)・あるいはこの両方、の症状が見られる者に診断されます。
強迫観念
  • 思考・衝動・イメージが繰り返し起こるが、望んだ上ではなく、強い不安とストレスをもたらす
  • これらの思考・衝動・イメージを無視や抑圧しようと試みる
強迫行為
  • 反復行為(例:手洗い・物の整列・鍵などの確認)、あるいは反復思考(お祈り・数える行為・言葉を頭の中で繰り返すこと)、または物事をきっちり決まった順序ややり方で行わないと気が済まない状態が顕れる
  • これらの行為や思考はストレスを回避するためや、本人にとって"最悪の状況"を防ぐために行われるが、現実性につながっているかは関係ない、または行為・思考が明らかに度を過ぎている
その他の条件
  • 強迫観念と強迫行動は時間を取る(1日のうち1時間は取られる)、過度のストレスを生じる、または個人の日常生活に著しい支障を与える
  • 症状は薬品・薬物の使用によるものではないこと、もしくは他の病から起こっているのではないこと
  • 患者が他の障害を併発している場合、強迫観念と強迫行為はその障害に関係するものとは別でないとならない(例えば摂食障害患者がOCDを別に診断されるには、食べ物に関すること以外で強迫観念・行為を顕している必要がある)
(参考: CDC

具体的な観念と行為
主な強迫観念 以下のいずれかが気になって仕方がない
  • 汚染 --- 泥・菌・汗などを含む排泄物、化学物質
  • 間違い --- 施錠、電気器具のスイッチ、書類、決断
  • 衝動 --- 暴力、性的行動、宗教的行為、辱め
  • 順序 --- 整理整頓、左右対称、数字配列
主な強迫行為 以下のいずれかを行わないと気が済まない
  • チェック
  • 洗浄や掃除
  • ノーマルな行動の反復
  • 順序立てた物の配置
  • 保存や収集
  • 精神的強迫性
  • お祈りごとを繰り返す
  • 頭の中で数を数える
  • 頭の中でリストを作る
  • 起きたことを思い返す

OCDのサブカテゴリーには主に次のようなものがあります。
  • 身体醜形障害(body dysmorphic disorder: BDD) --- 自己の顔を含める身体の造形について自意識が過ぎ、『醜さ』ということに対しての恐怖心があり、『完璧な美』に執着する。そのため社会生活に支障が出る。美容整形を繰り返すが、決して満たされることがない。
    この障害は治療をすることが困難で、自分を不完全だとする強い観念が本人を常に批評する行為を生むと、自分は価値がないものだとして自殺やリストカットなどの自虐行為を取ることもあります。また、自分の体型について歪んだ観念を持つと、拒食症などの摂食障害を併発することも少なくありません。
  • ホーディング障害(hoarding disorder) --- ただの収集癖とは違い、物を捨てられず生活のスペースを一杯にしてしまうため、周囲の衛生にも問題をきたす。人口の2~5%の発症率。
  • 抜毛症(trichotillomania/hair-pulling disorder) --- 毛を抜くことが止められない
  • エクスコリエイション障害(excoriation disorder/skin-picking disorder) --- 肌をむしってしまう症状で、炎症や変形などを引き起こしてしまう。
(参考: PsychCentral

Image:Lewis Baxter,UCLA
OCDの原因と治療
生物学的な視点はOCDの原因がお、眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)と視床(thalamus)・尾状核(caudate nucleus)などを含むエリアの回路が過剰に活発化していることと、帯状回(cingulate cortex)の低めな活発性にあるとしています。
認知行動の視点では、自己のパフォーマンスに対する自信の欠如と(認知)、強迫観念・行為が不安を取り除くという報酬になっている(行動主義)と指摘します。
社会文化的アプローチは、OCDが黒人とヒスパニックでは発症率が低いと発表しています。

かつて不安障害のカテゴリーに入っていたため、薬治療はSSRIs(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の処方が台頭とされていたのですが、実際には効果は低く、クロミプラミン(clomipramine:TCA)がアジア人と少数の白人患者において60%のみの服用量で効果をあらわすとされています。
行動療法ではエクスポージャー(曝すこと:exposure→flooding)と儀式妨害(response prevention)のコンビネーション治療が試されます。
(参考: Understanding Abnormal Behavior, Stanley Sue et al. 2008)

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