ボトックス(Botox®)の材料にはボツリヌス・トキシン(botulinum toxin)というものが使われています。 ボツリヌス菌は食中毒を起こす菌として知られていますが、ボツリヌス・トキシンはその直接原因となる毒素です。
筋肉が動くとき、神経細胞はアセチルコリン(ACh)という物質を流します。ボツリヌス・トキシンはアセチルコリンの放流をブロックするため、筋肉の動きが効かなくなります。この仕組みからボトックスをシワの部分に注入すると、毒素が神経細胞に働いて筋肉を麻痺させる状態を作り、皮膚は平らになるわけです。
ボトックスは永久的に効くわけではなく、神経細胞はアセチルコリン不足を自ら感知し、新しくアセチルコリンが流れる道を作っていきます。よって、しわのない顔を維持するためにはボトックスを定期的に注入し続ける必要があります。
さて、ボトックスの副作用ですが、見かけの面においては年齢に合ったシワがないことから不自然な顔の印象を与えることは皆さんもお気付きだと思います。ボトックスはこの他感情についての機能障害を起こします。
人間は顔を作ると、筋肉に付随した神経細胞が脳にその動きを報告します。すると脳は筋肉の動き方からそれにそぐう感情を割り出し、その感情を起こします。
ボトックスを注入している人の場合は、筋肉・神経が麻痺している状態なので、脳へ伝達事項が届かず、感情が平坦になります。また、人の表情を見て自分も同じ気持ちになるという、共感のシステムにも支障があり、人の気持ちが汲み取りにくくなるとされています(WebMD, CBSNews)。
人の気持ちを汲み取るのはミラーニューロンという神経細胞の働きが関与しているのですが、このミラーニューロンには人の動きを自分も同じようにしてしまうという特徴があります(霊長類に共通)。顔の動き、つまり表情の場合では他人の顔に表れている感情を自分も体験することになるのです。これを感情伝染(emotional contagion)といい、共感(empathy)が生まれます。これは女性に特に顕著に現れます(Cappella & Schreiber, 2006)。ところが、ボトックス施行後では顔の筋肉と神経が結ばれていないため、共感しずらくなるということです。
こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。
SPECIAL ISSUES
-
心理学入門
科学になるための手順・心理学の分野サイトマップ -
生まれか育ちか
人間の行動が生得的に決まるか環境で決まるかの論議 -
行動脳科学
脳科学(心理生物学)の歩みと、学習内容の紹介 -
認知心理学
"cognition"の定義と学習内容の紹介 -
社会心理学
定義、その他学習内容の紹介 -
異常心理学
学習内容と精神疾患の観点の歴史について -
発達心理学
学習内容、心的発達段階、認知能力的発達段階 -
神経解剖学
からだ・神経系・神経細胞 -
脳
神経細胞・構造・神経伝達物質 -
神経伝達物質
メカニズム・種類分け・薬の作用 -
感覚と認識
共通目標・感覚器官・味の表現と解読・体性感覚 -
情動・感情
情動の発生メカニズム・吊り橋理論・表情認識・文化 -
学習
馴化と鋭敏化・古典的条件付け -
記憶
タイプや特徴・工程・管理と問題 -
モチベーション
動因低減説・内因性と外因性・各見解 -
自己
文化の影響・他人との比較・自尊心 -
成長と変化
心理的・認知的発達・若年・65歳まで・65歳以上 -
セクシュアリティー
性的指向・セックスに関する問題 -
恋愛関係
惹かれ合いの要素・恋愛と伝達物質 -
人間関係
関係の始まり・関係の維持と劣化 -
人間間コミュニケーション
定義・人間間コミュニケーション・認識 -
食性
食べ物の選択・食欲・食事・満腹感・摂食障害 -
睡眠
体内時計・睡眠周期・眠りの役割 -
ストレス
研究範囲・ストレスの正体・段階・消化器官との関係 -
薬物使用
神経に働く薬の分類・薬物乱用と依存・リスクの理解 -
飲酒
適量の理解・血中濃度・二日酔い・酒のメリット