こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

セールスの心理学

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「保証人のはんこだけは誰のためだろうと決して押してはいけないよ」という信念があったのにも関わらず、どんなときにこの信念は揺るがされて取り払われるのでしょうか。
保証人という大それたことではなかったとしても、一度「いいよ」と言ったら、その後「やだ」と言う確率が下がるとか、どういう状況だと相手の説得に乗りやすいのかということに迫ってみましょう。

一度のYESは走り出したら、心理的慣性の法則とでも言いましょうか、NOに切り替えるチャンスを失いがちなのは知り合いとの間で起こることもありますが、商売の交渉時にも、ポーカーテーブルでも起こります。
小さい事の依頼を承諾すると、これより重大性や値段などが上回る依頼にも承諾しやすいというこの現象は "foot-in-the-door phenomenon" と呼ばれ、相手の懐に入り込むのに、ドアがバタリと閉められる前に自分の足を突っ込こむ絵からこの名が付けられています。
化粧品フロアで売り子にハンドクリームを塗ってもらいながらすすめられ、600円くらいならと「じゃぁ買いますよ」とOKを出すと、実はもっと大きい容器で今なら3500円と言われれば、「それならいらない」と断るよりも、3500円の方を買ってしまったりするようなことが例となります。
ちゃんとした実験は品を変え何度も繰り返されています。二つほど最後に記載しておきます。

更に、一度のOKは続く要求にもOKを出すというこの心理傾向を巧く利用し、上の例で言うならば3500円と提示して承諾させ、後から値段が間違えていたと3800円で売るような故意的な技は "low-ball technique" と呼ばれ、アメリカでは違法です。
一回に払う額が3500円が3800円になったくらいなら差はかわいいものですが、最初はそもそも600円のはずでした。また、350万円が380万円に変更になるとか、継続的な毎月の支払いなどではかなりの額が違ってきます。
実際著者の家に来たインターネット接続とケーブルテレビ視聴のセット販売で、実名出しますが、AT&T社の場合です。それまで使っていた地元ケーブルの月々の値段を教えると、「それより低い額でうちはやります」と具体的な数字を出しました。パッと見容姿も良く、しゃべり方も障ることなく、「そうですね」と一度YESとしました。すぐ後ほどこの職員は帰ってきます。先ほど提示した額いくらでしたっけね的に話を進めると、「実はごめんなさい、15ドルほど上でした」とは・・・本当に間違えたのか、会社に怒られたのか、あるいは完全になめられて違法なのにも関わらず大胆にlow ball作戦に出たのか、真相はわからないですけども。


1. 汚い文字で"Drive Carefully"と書いた大きな看板を、家の庭先に立ててくださいとダイレクトにお願いした場合は17パーセントが合意。"Be a safe driver"と書いた8cmに満たない小さなものを窓に貼るようお願いするとほとんど全員が合意。その2週間後に先と同じ大きなやつをお願いすると76パーセントが合意した。Freedman & Fraser, 1966
2. トロント郊外居住者にカナディアン癌組合への寄付を直接依頼した場合は46パーセントの合意が得られた。別のグループでは襟章を配り着けてもらうように依頼すると全員が合意し、翌日寄付をお願いすると94パーセントの合意が得られた。Pliner et al., 1974

何しろ以上のような、説得が行われる場合のやりとりを persuasive communications と言います。
どんな要素が説得力を作り出すのか、2に続きます。

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