こちらのページは特集(Special Issues)の一つです。専門用語頻出による読み辛さにご注意下さい。

Genie: The Wild Child

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Genie:Secret of the Wild Child では、Genie(仮名)という13際まで隔離されて育った女児が紹介されています。1歳から12年間、一つの部屋に閉じ込めたままとは何とも許しがたい、neglect(ネグレクト)に分類される虐待行為です。

虐待者本人であるGenieの父親は事件が明るみに出ると自殺をしてしまったため、何故Genieを隔離・虐待したのか真相は明らかにはなりませんでした。彼は
"The world will never understand."(この世の誰にも理解する日は来ないだろう。)
というメッセージを書き残して死んでいます。Genieの母親の証言では、Genieを生まれながらの精神遅滞(mental retardation)と判断した父親の行動だったとされています。障害のある子を外に出すのが恥ずかしかったのでしょうか。それとも、全く何の問題もない子をただ閉じ込めて精神遅滞だったからと言い訳をしただけなのでしょうか。
保護されたGenieは、ケーススタディーの対象として当時言語学の研究生だったSusan Curtiss(現UCLA教授)によって学習されることになりました。保護された時点で言葉を発さないGenieの言語能力の発達経過を記録していくことになったのです。

心理学は行動(behavior)を説明する上でいろんな見方を展開します(心理学入門-科学的手法参照)が、特定行動の発現が生まれつきのものを要因とするか、後天的なものを要因とするかで意見が分かれることがあります。この対立・論争は、"nature versus nurture" と呼ばれ、心理学では常に論議されます。
natureの方は、behaviorが生まれつきの(生得的)要素に起因していることに重きを置き、遺伝子や脳など、生物学的な研究から理解・説明を試みます。対してnurtureの方は、behaviorは環境を通して身につけれていくもの、という見方をし、教育を含む社会的影響との関係から理解・説明を試みます。

言語行使はnature vs nurtureが激しくぶつかるトピックで、もともと人間にプログラミングされている能力であるとする派と、教育で可能になるもの以外の何ものでもないとする派が戦います。
人間は12歳という臨界期(critical period)が過ぎる前に言語を獲得しなければ、その後も言語能力を発達させることができないという説があり、Genieがこの臨界期を過ぎて発見され彼女の言語は発達していないとし、臨界期仮説が正しいと主張されます。一方彼女の言語は発達していると主張する他の専門家もいます。しかし、いずれにせよ精神遅滞の要素が絡んでくるため、Genieがこの仮説の立証ケースとはなり難いのです。

さてでは、彼女の精神遅滞はnatureかnurtureかということです。生まれつきの可能性もありますが、隔離という極めて刺激・学習の少ない条件によって認知的能力の発達が阻害された可能性もあるわけです。
認知的能力だけではありません。Genieの歩く姿勢やボールを追う動きなどが他の人間たちのようなコーディネートに欠くことも、運動能力の発達が促されなかった環境によるものとすることができます。
脳の大部分の神経細胞は母親のおなかの中で数を増やすことを完了しますが、シナプス(電気信号を伝え広げるところ)の数は個人が外界に出てくると過剰なまでに発達します。その後シナプスはいらない(使われない)ものから自滅し、回路が整頓されるようなこと(pruning)になります。よって、隔離という刺激のない空間では通常の環境にいるより多くのシナプスが失われていったと考えることができます。一度整頓後の回路が標準装備となれば、種々の学習は困難を極めます。
しかし、やはり、この問題についても決着はつきませんでした。

この他、natureとnurtureは特に男女の違いで熱い論争を繰り広げます。男子の方が数学が得意というテスト結果は生物学的な性別で引き起こされるのか、それとも社会的影響によるものなのかなどが例です。

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